タイ料理屋で働いていた頃の話・その4

a_day
さて、その4です。

勤務先のレストランにいた日本語の上手な女性スタッフ・プーに「(タイ語練習の)パートナーに!」と紹介されたのは、彼女と同じ村出身のノックという夜のお店でチーママとして働く女性でした。

ノックは一言で言えば、サッパリした女性。悩みや問題があったとしても、それは表に出さずいつもニコニコとして、また店で他の子達が悩んでいれば(ビザ関連・お金・男、がほとんどでしたが)親身になって相談に乗る、いい姉御肌の女性でした。ただし怒ると手が付けられないぐらいになり、ママも一目置いていました。外見的には、身長が高く、スタイルもよくて、タイ人にしては色も白く、顔立ちもはっきりとした美人系の綺麗さだったので、ガトゥーイ(タイのオカマ…みんな綺麗!)に間違えられることもしばしばでした。

日本にいるタイ人コミュニティ(恐らく他の国でもそうでしょう)、特に夜の嬢たちにはその手の「頼りになる」先輩オネーサンの存在は欠かせません。タイ食材や雑誌、ビデオなどをどこで仕入れるのか、ビザを上手に通すには、色々と詮索しない病院はどこか、日本人と結婚するのに必要なものは、等など…なんとか日本でうまくやっていくには、彼女たちのような先導役がいないと、後から来る女性たちが見知らぬ土地で暮らすのはなかなか大変なんだと思います。また、日本で伴侶を見つけて永住ビザまで取った人達など(彼女たちはそれを一種のゴールと見定めていたりもしました)も、みなに頼られる存在になっている人が多かったです。

さて、ノックの話。当時のボクは彼女より年上だったので「ノック」と日本で言うところの「呼び捨て」で彼女を呼んでいました。彼女がボクを呼ぶときには年上を表すピー+アダ名です。実は、ボクにはタイ式のアダ名「チューレン」があるのですが(ガォ、とは違うものです)そのアダ名を付けてくれたのは、何を隠そうこの彼女でした。本名に近いことと、趣味にしていたものから連想して付けてくれたのですが、もちろんとても気に入っていますし、今でもタイ人の友達からは、そのアダ名で呼ばれています。

そんなノックとレックママ、更にはその居酒屋のママも一緒にホテル街のど真ん中、北なタイ居酒屋で飲むこと数時間。すでに外はしらじらと。夜の暗さが隠していた街のうす汚れた部分が、徐々に浮き上がって日常と入れ替わる時間が近くなってきています。そんな中でわかったノックに関することは…

  • 若い頃に結婚してタイには子供がいる
  • 元ダンナはアル中のヤク中で働かないし愛人といる(離婚届出せてない)
  • 日本には何度か来てて都合5年ぐらい
  • 大阪に親戚のお姉ちゃんがいる(日本人と既婚)
  • もうすぐビザが切れる
  • 日本人のパパ(≠ダンナ)がいる
  • 整形で胸を大きくしたいけど怖い
  • ディズニーランド、特にカントリーベア・ジャンボリーが好き
  • 『時の流れに身をまかせ』『襟裳岬』が好き
  • お刺身・寿司が好き
  • かりんとうが好き
  • 浅草が好き
  • カエルが嫌い
  • 好き&得意なタイ料理はカノムジーンナムギョウ

他にも色々とあったんですが、いやぁ、情報多すぎてお腹いっぱいです。タイは好きですし、彼女のことも綺麗だなぁ、と思っていましたが、パートナーになろう!とか言うレベルには、正直なトコ重すぎる感じでしたね、この時には。

暇だとは言え店でも飲んでたわけですから、ママもノックもかなりの酔いっぷりでした。もちろん、ボクも。気がつけばママはテーブルに突っ伏して寝ています。居酒屋のママは、イツモノコトヨー、というとどこかに電話をしました。ほどなく車がやってきて、背の小さく細っこい、メガネの男性が店内に。彼は、慣れた感じでママの隣に座り背中をさすって話しかけています。ノックが彼に何かを言いました。それとは無しに聞いてみると…おー!全部タイ語!彼はニコニコとタイ語でノックと話をしていたんです。

す、すいません!それタイ語ですか!?

はい?タイ語ですよ。

日本語!日本の方なのですか!!

はい、日本人です。
って、アナタ日本語で話しかけたじゃないですかw

そう、ボクは酔った勢いで『タイ語で話してる!すごい!聞きたい!』となって、いきなり話しかけてしまったのです。そんな失礼なボクを拒否もせず、受け入れてくれたのは今考えても本当にビックリですし、ありがたかったです。みなさんのご想像通り、彼はレックママのダンナさんでした。濱岡さんという方で、親からの代の仕事を継いで会社をやってる社長さん。年齢は60手前ぐらい。過去にも結婚をされていたことがあるんですが、事情があって独り身になった時にママと出会って結婚することになったという話でした。こうしてママが酔いつぶれた時には、いつもこうして迎えに来ているんだそうです。

あぁいうお店でママが働いているの、嫌じゃないんですか?

仲間といると楽しそうですし。
それに、家に1人でいてもつまらないでしょう?

それはそうですけど…変なお客さんも多いじゃないですか?

アナタみたいな?って冗談ですよ。
浮気されたら、まぁそれまで。
ワタシに魅力が無くなったって話ですし。
そもそも離婚歴もあるオジサンですからね。

嫉妬とか無いんですか?

んー、そういうのはもう若い頃に無くしましたねw
彼女はタイにダンナも子供もいますし。
あ、でもちゃんと離婚していますよ。

え!?え!?

段々と目の前の若干ちんちくりんなオッチャンがかっこ良く見えてきました。酔った頭でぐるぐる考えつつも話を続けます。

さっき、タイ語で話されてたじゃないですか!?

そうですね。そんなに上手じゃないから恥ずかしいですけど。

いや、凄いです!どうやって覚えたんですか?

彼女と話したり、他の店に飲み行って覚えたりw

他の店にも!学校とかには?

いや、いや昼間は仕事ですし。
もっぱら夜の学校と自習です。

とオヤジギャグを交えつつ話してくれました。今思えば、よくいるタイプの『タイにどっぷりハマったおっさん』だったのかもしれないですが、そのステレオタイプな感じとは、またちょっと違った上品さというか、がっつかなさというか、なんだかいい雰囲気を持った人だったんですよねぇ。レックママも店に出るのは週2回程度で、確かに生活がかかってる!って感じではなかったのです。この濱岡さんとは、以後もかなりの頻度で一緒に飲むことになりました。彼の言う「他の店」にも色々と行きましたねぇw彼にもアダ名がついていて、その体型からは全く想像つかないんですが、みんなにはピームー(豚、を表すムー)と呼ばれてました。

ピームー イイヒト ナー ミンナ ダイスキ ナー

いつの間にか机につっぷしているノックがつぶやきます。濱岡さんは、それをニコニコと見つめていました。

さて、ワタシ達は帰りますね。
ノックをお願いしますよ。

え、あ、はい!また!

と、サクッと濱岡さんはレックママと帰って行きました。店に残されたのは、ノックとボク。ここのママやコックは片付けを始めています。とりあえず、ノックを送らないと…と彼女を揺り動かして起こします。

ノック、帰るよ!

ワタシ ココ ネル ナー カエル メンドクサ ナー

ダメだよ!お店に悪いでしょ!

イツモ ネル ナー

聞くと、確かによく寝ていくそう。とはいえ、さっき濱岡さんに「お願いします」と託されたことも気になります。

ノック、やっぱり送るよ。ね?

メンドクサ ナー メンドクサ ナー

彼女は面倒くさい、をメンドクサ、と言っていました。嫌がるノックを無理やり起こして、タクシーを拾い彼女の部屋を目指します。彼女の部屋=スタッフ・プーの部屋なので、ちょっとバツが悪いですが仕方ありません。ちなみにこの日、ボクの仕事はお休み。5分ほど走って彼女の住むマンションに到着。彼女はすでに夢の中です。肩を貸しながらエレベータに揺られます。腰に手を回して運ぶと、ノックの胸がちょっと当たって、なんだかドキッとしたり。でも重くてイラッとしたり。そうこうして部屋に着きました。早朝なので呼び鈴を押すのはためらわれましたが、鍵もどこにあるかわからないので、ピンポーン、と鳴らします。

扉を開けてくれたのは、初めて見る顔の女性。歳の頃はノックよりも少し上でしょうか。なんと、1DKの部屋に3人で住んでいたんですね。ボクがいることに別段驚きもせず、そのまま彼女は部屋に戻ります。仕方がないので、ノックを担いでそのまま部屋の中に。ソファーにはプーが寝ていました。洗濯物が干されたり、服が散乱してたりと、お世辞にも綺麗とは言えない部屋でしたが、女性が住んでいるんだなぁ、という雰囲気はある部屋でした。部屋の片隅には王様の写真と仏壇もありました(これは後でわかったんですが)。ノックは、この部屋の家賃を出しているので奥の寝室で1人で寝ているんだそうで、そっちに運んでくれと言われます。

ベッドに下ろすと、さっきの彼女がボクを呼びます。テーブルに、ビールとチーズおかき。きっと、こうやって彼女を送ってきた人も多いんでしょうね。ボクはもうかなり飲んでいてお腹いっぱいでしたが、せっかくなので…ソファーでは、プーがまだ眠っていたので、床に座って頂きました。その間に、彼女はノックをパジャマに着替えさせたようです。そして、ボクにTシャツとトランクス!を渡しました。

何これ?

シャワー浴びるでしょう?

いや、大丈夫だよ。帰るから。

え?ノックと一緒に寝るんじゃないの?

寝ない!寝ない!送ってきただけだよ!

そうなの。。。

彼女は不思議そうな感じで、また床に敷いた自分の布団へ戻って眠り始めました。三人のタイ人女性が眠る中、朝の光とともにビールを飲み干したボクは、何がどうなって、ココにいるんだろうか…とボンヤリと考えていました。思えばこれが、ボクとノックの始まりだったわけです。
http://bkk9.net/2016/03/15/thai-restaurant-story5/

関連記事