タイ料理屋で働いていた頃の話・その5

namgyou

完全に連載と化してきましたが、その5です。過去の話はこちらから。

http://bkk9.net/thai-restaurant-stories/

勤務先の女性スタッフ・プーに「(タイ語練習の)パートナーに!」と紹介されたのノックという夜のお店でチーママとして働く女性。一緒に飲んで、酔いつぶれた彼女を同居人のいる部屋まで送ったところまでが前回でした。

同居している女性からもらったビールを飲み干した頃には、外は普通に朝日がさしていました。遮光では無いカーテンは、容赦なくその光を室内に迎え入れています。所在なさげに座っていたボクは、ぼーっとした頭で『帰ろう』と思い立ち上がりました。そして、少しよろけてソファーにぶつかります。眠っていたプーが起きました。

ガォさん、痛いです。

ご、ゴメン。起こしちゃったね。

もうさっきから起きてます。学校行きますし。

と、ソファーで布団にくるまっていた彼女はボクを見つめます。

あの…シャワー浴びたいので、向こう向いていてください!

あ、あ、ゴメン…。

謝ってばかリです。ボクがノックの部屋の襖を見ていると、後ろでプーが起き上がる気配がしました。酔っていたので、ちょっと見ちゃおうかなぁとか思いましたが。そのままプーはシャワールームへ。もう一人の同居人は、まだ眠っています。ノックの部屋からは特に物音も聞こえないので、眠っているのでしょう。

プーがシャワーを浴びているうちに帰ろうと再び立ち上がると、ちょうど彼女が出てきました。ちゃんと、Tシャツにスウェットはいてました。

ガォさん、帰るの?

うん、帰るよ。帰って寝るよ。

そう。ピーノックには、話しておくね。

何を話すんだかわかりませんが。ボクはそのままフラフラと明け方の街に出ました。昨日の夜からのジェットコースターのような時間が終わって、そのまま部屋に戻り、文字通り泥のように眠りました。夕方前に起きたのですが、飲んでいたのは焼酎が多かったのでそれほどの二日酔いではありません。携帯電話がチカチカしてます。ノックからの着信。折り返し電話をします。

…ハロー?

電話くれた?どうしたの?

ガォ オナカスイタ?ゴハン タベタ?

んー、まだだよ、起きたばっかり。

ウチ オイデ ハヤク!

このタイ人独特『ハロー?』が耳に残っている方も多いんじゃないでしょうか。ゴハンを作ったから食べに来い!というお誘いでした。プーからノックのことを聞いて、まだ3日しか経ってないんですが、そんなのお構い無しです。この辺の距離の詰めっぷりというか、あっけらかんぶりもタイ人だなぁ、と思います。プーの職場の人間だっていうものもちろんあったとは思いますが。ということで、十数時間ぶりにノックの部屋に戻ります。部屋に行くと、例の同居人(名前は確かナーム(水)だったと思います。印象薄くて忘れてるw)とノックがいました。ちなみにナームは元々ノックと同じ店で仕事をしていたのだけれど、体調を崩して今は店に出ていず、そしてこの日の1週間後にはタイに帰ることになっていました。プーは学校から店に直接向かったようです。キッチンからは、いい香りがしています。

コレなに?タイ料理?

ソー ノック イナカ リョウリ ナー
カノムヂーンナムギョウ ナー

飲んだ日に言っていた、彼女が好きだという料理でした。実はこの料理、まだボクは食べたことがなくて、話を聞いた時に食べたいと言っていたのです。覚えててくれたんだなぁ、とちょっと嬉しく思いながらソファーに座って待っていると、ナームがビールを持ってきてくれます。なんで彼女はいつもビールを持ってきてくれるんだろう…と、まぁグビグビ。ほどなく、ノックが鍋ごとそれを持ってきました。続いて、ざるに一口分ずつ巻かれた素麺が。

ヨシ タベル ナー イタダキマス!

いただきます!

実はタイ語には「いただきます」に当たる言葉はありません。けれど、ノックは「いただきます」「ごちそうさま」という日本語がとても好きだと言っていました。彼女も多くの夜の女性と同じく貧しい暮らしを経験していましたし、とても信心深く、朝晩のお祈りを欠かさないような人だった(酔っ払うと寝ちゃうけど)のでゴハンに感謝するという日本語の感覚が合ったのでしょう。見ていると、素麺の塊を1つ、2つとお皿に置いて、その上から鍋の中の汁や具をザバッとかけています。見様見真似でボクも同じように実食。か、辛い!今ではかなり辛めのものも平気になったボクも、当時はまだまだヒヨッコ。かなりガツンと来ました。ノックもナームも笑っています。

カノムヂーンナムギョウ自体は、元々それほど辛い!という料理ではないのですが、ノックの好みで辛くしていました。トマトや豚ひき肉が入った具沢山の汁です(見た目はこんな感じ)。本来ならばスペアリブや豚の血の塊、ドックニゥ ดอกงิ้ว と呼ばれる花のめしべ?おしべ?の部分(干したえのきみたいな食感でなんだかハマりますw)などが入るのですがここは日本ですので全ての材料は揃わないのは仕方なし。この時にはそれもわかっていませんでしたが。スペアリブの代わりは骨付きチキンと鶏の足(モミジと呼ばれる部分)でした。鍋からモミジがちょこちょこ見えていたのを強烈に覚えています。タイの本当のカノムヂーンは、発酵させた米をところてん方式で押し出した麺なのですが、日本ですのでいわゆる素麺です。そして、タイ人は日本の素麺かなり好きですw

食事が終わっても、鍋の中にはまだタップリと残っていました。ノックはおもむろにそれを厚手のビニール袋にザーッと開け、器用にクルクルと口を輪ゴムで止めます。ちょうど屋台の綿あめみたいに空気がパンと入った綺麗な袋になりました。タイではおなじみの風景ですね。聞くと店に持っていくと言います。店の女の子達の食事になるのです。

ガォ キョウ ミセ クル?

いや、明日仕事だから、今日は行かないよ。

ソッカー…

この「…」の部分の時の切なそうな顔ったら無かったんですが、正直連日の朝までコースでは潰れてしまうので、この日は自重してそのまま自宅に帰りました。店に出たノックからは、暇だったのか何度か電話がかかってきて、他愛もない話をしたり。ボクは0時前には寝てしまったんですが、終わったらしい2時過ぎに電話がかかってきました。

ガォ ナニ スル?

え、何もしないよ。寝てたよ…。

ソッカー ネルカー オヤスミ ナー

正直ちょっとうざいぐらいの勢いでガンガンと来ますが、それをあまり嫌がっていない自分がいました。居酒屋で聞いたヘビーすぎる話を補って余りある、彼女の魅力に徐々にやられ始めていたわけです。明くる日は普通に仕事をして帰宅、そのまま就寝。電話もかかってきませんでした。というか、ここから何日間か全く連絡なし。こちらも仕事の忙しさと疲れで、気にはなっていたものの電話をする気力もありませんでした。そんな日々が1週間ほど過ぎた頃、ボクが働いている店にノックがやって来ました。しかも男連れで。

彼女はいわゆる同伴で店に来たようです。わざわざタクシーに乗って!しかも、後でわかったんですがこの男性がノックのパパでした。彼女はボクに特に関心も示さず、プーと楽しそうに話しながら、料理をオーダーし、お酒を飲み、帰っていったのです。この時に、ボクの中にハッキリと嫉妬感情が湧くのがわかりました。

プー、なんでノックはウチに来たの?遠いでしょ?

…。

あの男の人誰?なんか偉そうだったけど。

…。

プー!聞いてる?

聞いてる!ガォさん、ピーノックに連絡しないでしょ!!

え?

ピーノック、怒ってるよ!ガォさん電話しない!って。

え?

彼氏は、ちゃんと電話しないとダメでしょ?

えーーーーーーーーーーーー?

どこでどうなったかわからないのですが、彼氏になっていたというのです。いやいやいや。しかも、1週間しか経ってないのにキレてる…。彼氏だっていう人間の店に、パパを連れてくる…いやぁクラクラきます。まぁ色んなタイ人と付き合ってきた今になってみると、その行動とか言動は、よーくわかるんですけどね。当時はホントにクラクラしました。でも、このプーの言葉に、ボクは喜びを感じてしまったわけです。ハマってしまってたんですねぇ…。ボクは店から頼れるあの人に電話をしました。そう、濱岡さんに。

カクカクシカジカで…

あはは。そうですか。今日、仕事終わりにでも飲みましょうか。

ぜひ、お願いします!

この日、ボクは濱岡さんに『タイ人女性との付き合い方』を色々とレクチャーしてもらいました。もうそれはメモを取る勢いで。そして、いくつかのキーポイントを聞きました。

  • マメであること
  • 常に褒めること
  • 浮気をしないこと
  • タイ語を話すこと

ここでもまた『タイ語』が出てきました。やはり、そこは避けては通れないのです。濱岡さん自身の経験で、たとえ日本語ができるタイの子でもタイ語で話をしたほうが圧倒的に仲良くなれるし、理解が深まる。本気でタイの子と居たいと思うなら、タイ語は必須だよ、と言われたのでした。
http://bkk9.net/2016/03/25/thai-restaurant-story6/

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