タイ料理屋で働いていた頃の話・その6

discoball

その6です。過去の話はこちらから。

http://bkk9.net/thai-restaurant-stories/

濱岡さんと飲んで色々とレクチャーを受けたボクは、次の日、仕事の合間を見つけてノックに電話をしました。そうアドバイスの一つである「マメさ」を実行です。しかし呼び出し音はすれど、彼女は電話に出ません。時間を何度か替えて電話しましたが、それでも全く出ません。意地になってかけますが、いつになっても出ません。プーに相談しても、私は知らない!と連れない返事。仕方ないので、仕事終わりに店に行くことにしました。

その晩はまだ店が終わっていなかったので、入口近くのテーブルに座って、普通にお客さんとして飲み始めます。当時は1時間のセット、焼酎かウイスキーが飲み放題で4000円ぐらいだった記憶があります。ノックは他のお客さんについていました。レックママがテーブルに来ます。

ノックとケンカしたの?

ケンカっていうか、何にもしてないんだけど…
ノック、怒ってるみたいね

そうなんだよね…

でも大丈夫よ

タイ人あるあるな感じの『何の根拠も無い大丈夫』ですし、そもそも何に対しての大丈夫なのかも分かりませんが、ママが言うなら大丈夫なのかなぁ、と思いつつお酒を飲みます。しばらくすると、ノックが席にやって来ました。背が高いので、やはりロングドレスが似合います。ボクの半分まで空いたグラスを見ると、黙ってお酒を作り始めました。自分の分も、勝手に頼んでいます。乾杯もなく、飲み始める彼女。何を言えばいいのか分からなかったので、とりあえずボクも黙って飲み始めます。サクッとグラスが空いて、またノックが作ります。こんなことを繰り返しつつ、二人で黙って飲んでいると、新しいお客さんが入ってきました。イラッシャイマセー!お客さんを迎える声、その先を見てみると…なんと同伴で店に来ていた、ノックのパパです。ちらりとノックに視線を落として、奥のテーブルへと歩いていきます。

ボクはこの時、なんとも言えない感情に苛まれていました。結局、この日初めて彼女に対して発した言葉は、全く情けない事に「あっち(のテーブルに)行かないの?」でした。彼女はボクをじーっと見つめたあと、自分の手をボクに絡め、ギュッと腕にしがみつきました。

イカナイ ナー ガォ ト ココ イル ナー

ここから、ノックは話し始めました。パパはあくまでもパパであって、好きな人では無い。でも、タイの実家の子供の面倒も少し見てくれていたりして、優しい。あの日は、同伴でウチの店に来て腹いせをしたつもりだったのに、結局はパパにもボクにも悪いことしてる気がして、余計に悲しい気持ちになった。パパとはもう一緒に居たくなくなってしまった(=当然、お手当も無くなる)…ボクと一緒に居たい、そんな感じの内容でした。俄には信じられませんが、彼女は本気でそう言っているようでした。ただの雇われのタイ料理屋の店長の、何に、ドコに、惹かれてくれたのか!でも、縁というか運命というかそういうものを感じる出会いもある!と思っちゃうことありますよね?(無い?)ボクにとっては、ノックとの出会いはそんな感じだったのかもしれません。恋愛自体、ここまでに色々と経験はしていましたが、この一連の流れとこの先のジェットコースターの様な時間はなかなか経験することが出来ないものでした。

とはいえ、今までのパパとの関係性や過ごした時間もありますから、そう簡単に切れることも出来ないでしょう。レックママに促されて、パパの席に行くノック。やがてパパの大きな声も聞こえてきました。少し酔っ払いながらその光景を見たボクは、やっぱり寂しい気持ちがしたのです。出会いの当初に感じていたノックの生い立ちや現在の状況に対する『重さ』は、この時点ではもうボクへの抑制力など無くなってしまったようでした。ミミーと呼ばれていた女性がノックの代わりに席に来ます。この子は、綺麗でも可愛くもないんですが、とても愛嬌があって、日本語もうまかったのでそれなりに人気がありました。彼女はボクとノックの事も知っていて(というか店の子はみんな知ってました)、情報を色々と教えてくれました。知っていたことも知らないこともありましたが、ある程度は想定内でした。

結局その日はノックが席に戻ることはなかったのですが、さっき彼女から聞いた一言でボクには十分でした。とりあえず、これからゆっくりと関係を作っていけばいいかなぁ、と思っていたのです。お会計をして外に出た時に、レックママも一緒に出てきました。

ガォ、お店にはもう来ないほうがイイね。

そう?

うん。ノック、お客さんいっぱいいるでしょ?

そうか。そうだよね…。

考えてみたら当たり前です。女性を売り物として仕事をしているのに、そこに彼氏(と呼べる状態かはわからないですが)が居てしまったら、お客さんはドッチラケですからね。でもパパは店に普通に来てるけど、それはいいのか?お金持ちだから?彼氏じゃないから?んー…雑居ビルのエレベータで下りながら、そんなことを色々と考えていたら、3階で扉が開きました。

このビルの3階にはタイ食材や調味料、タイ野菜、それから雑誌やタイのテレビを録画したCDなどを売っている店があり、この街のタイ人たちからとても重宝されていました。店自体は日本が長いタイのオバチャンと、その息子が切り盛りしています。息子の名前はジョー。そのジョーが開いた扉の前にいました。ボクは店の食材が無くなったりするとここにちょこちょこ来て買っていたので、ジョーとも顔見知りです。歳もほぼ同じぐらいで妙にウマが合う相手でした。

お!ガォ!元気?どこ行くの?

今、上で飲んでたんだよ。帰るトコ。

そうなの!?ごはん食べた?
せっかくだから、飲みに行こうよ!

え?

ジョーはいつもニコニコしていて、フレームの細い丸メガネが似合う、優しいタイプのタイ人でした。顔もタイ人というよりは中国人ぽくて(華僑だったんだと思います)、奥さんは日本人でした。日本が長いこともあって、日本語は読み書きも含めてかなりのもの。結局、彼の勢いに押されてそのままハシゴ酒です。どこに行くとも言わず歩いていくと、着いたところは店内はかなり暗く、深い青い照明とブラックライトが光り、ミラーボールが輝いています。そこはパブではなくてカラオケでした。タイのカラオケも置いてあり、付近で水商売をしているタイの子達が遊びに来る感じです。聞くと、この店はジョーが経営していて、カウンターの中にいる若くて綺麗なタイ人女性はジョーの彼女だといいます。

え?ジョーの奥さん?

違うよ、ワタシの彼女。

浮気ってこと?

んー、ミヤノーイだよ。日本語だと、お妾さんネ。

そんな日本語を知ってるのも驚きですが、お妾さんに堂々と、しかも日本で店をやらせているというのに驚きました。カウンターの彼女もジョーに奥さんが居ることも知っているのです(タイだと今でも結構多いです。奥さんとお妾さんのバトルとかたまにニュースになったりしてます)。正直、小さな雑貨屋を親子でやっているタイ人、という認識しか無かったのですが、他にも色々と商売をしているやり手な彼でした。とりあえず、そこで乾杯して飲みだすと、次々にタイ人女性のグループが入ってきます。それぞれのテーブルを回り、一緒に乾杯をするジョー。ほぼ同じ年で、自分の店を(しかも妾までいて!)異国の地でちゃんとやってるんだなー、と羨望と嫉妬が入り混じった感情でその光景を眺めていました。女の子も色々と紹介してもらって、一緒に飲んだり、カラオケ歌ったり、ガンガンとルークトゥン(当時はそんな呼び名は知りませんが)かけて踊ったり!すっかり酔っ払ってしまいました。結局、その日はそのまま酔ってジョーの部屋に泊まったのですが、ノックからの連絡は無し。明くる日からは、また普通に仕事の日々が続きました。色々と考えて思うところもあったのですが、ボクからは電話はかけず。プーと職場で会っても、情報交換は特にしません。そんな中、ノックからの電話が来たのは、ジョーと飲んだ日から1週間ほどした頃。ちょうど、彼女のお店が終わったぐらいの時間です。

ガォ ゲンキ?ゴハン タベタ?

元気。ゴハンは店で食べたよ。

パパサン バイバイ ナ

そうなの?

ソー バイバイ レオ ナー

この時彼女が「バイバイ レオ」と言ったことをとてもよく覚えています。あー、レオは、タイ語で過去形を表す言葉だったなぁ、と勉強したことを思い出していました。彼女は『パパとさよならした』と言ったわけです。ボクとの連絡が無い間にパパと話して別れることにしたみたいでした。店には来るけれど、普通にお客さんとして来るだけだと言います。それを聞いたボクは、彼女に言いました。

ノック、今から会おうよ。

ウン イイ ナー ミセ マッテル ナー

次の日も仕事でしたが、そんなことよりも、今すぐに彼女に会う事が大切だと思ったのです。夜中の街を彼女の店へと急ぎました。

続きます。

http://bkk9.net/2016/04/14/thai-resutaurant-story7/

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