タイ料理屋で働いていた頃の話・その7

nok
その7です。1〜6はこちらから。

http://bkk9.net/thai-restaurant-stories/

前回は、これから店に行くね、とノックに伝えたところまででした。

時刻はすでに0時もとうに回っていましたし、明日も仕事でしたが兎にも角にも彼女に会いに行くべきだと思い、店へと急ぎます。レックママからは店には来ないほうがイイと言われていたのは覚えているけど、営業時間外なら問題ないはずです。考えている内に、店に到着。営業は終わっているようです。中に入ると、ノックが一人座っていました。服もすでに普段着に着替えています。ボクを見ると、ニコリと微笑むノック。しばらく言葉もなくお互いを見ていました。

ゲンキ?ゴハンタベタ?

さっきも聞いたよ(笑)ノックは?

ウン オナカ スイタ ナー

二人で店を出て、例のホテル街のど真ん中にあるタイ料理屋さんへ。ノックは特に人目も気にすることもなく、腕を絡めてきます。店に着くと、レックママと濱岡さんの二人がいました。濱岡さんは、こちらに気づくと、やぁ!と手をあげてくれたのでそのまま同じテーブルに着かせてもらうことに。一緒に飲みというか、食事をはじめました。濱岡さんは、普段と何ら変わりなく淡々とした感じでいます。妙に覚えているのですが、その時に濱岡さんは「ほうとう」の説明を延々とレックママにしていました。

ノックは普通に食事していますし、レックママも特に何を言う訳でもありません、他愛もない話をしながら皆で食事を続けます。とはいっても、もう1時は回っていて、気がつけば、他のタイパブで働く子達も続々と来店。深夜にもかかわらず店は満席です。食事だけだと申し訳ないので、ボク達は濱岡さんとレックママに挨拶をして店を出ることに。ノックがもう少し飲みたいというので、ジョーの店に向かいました。

ジョーの店もそこそこの入りですが、普通に座れました。二人で座って飲み始めると、ジョーとジョーの彼女もテーブルにやってきます。ノックとジョーの彼女は仲良しらしく、ボクらの経緯も知っていました。何とは無しに乾杯をして、ゆったりと飲みます。その夜はカラオケを歌う人もおらず、珍しくしっとりとした営業。気がつけば、二人ともそこそこ酔っぱらっていました。ジョーに挨拶をして、店を出ます。ふと、明日の仕事が頭をよぎりました。

さて、そろそろ帰ろうか。

ガォ アシタ シゴト?

そうだよー。もうほとんど今日だけど。

イッショ カエル ナー

一瞬、寝たいんだけど…とか思ったのですが、それを見越したようにサクッと腕を回してキスをしてくるノック。まぁ、さすがに今日はそうなる予感はしていました。ノックの部屋にはプーもいるので、ボクの部屋に来ることに。男の一人暮らしの殺風景な部屋ですが、掃除は嫌いじゃないので汚くはありません。ノックは興味津々に部屋の中をチェックします。その内に、テレビ台の上に置いてあるフォトフレームに入った写真を見つけました。手にとってじっくり見るノック。

コドモ? オンナノコ?

そう、女の子だよ。俺の子。

ケッコン スルカ!オクサン アルカ!

目を白黒させるノック。その目は、徐々に怒りと驚きとに満ちていきました。

もう、離婚して随分経つんだ。
今は一人。子供にも会ってないよ。

……

そうなんです。ボクは若い頃に結婚していたことがあって、その時に出来た子供の写真を飾っていたのです。その子は現在、もう20歳を越えています。向こうは再婚したので、子供には新しい父親がいるわけで。なので、会いに行くこともしていませんでしたし、連絡も手取らずという状態でした。ノックは怒ったのがバツの悪そうな顔をしています。

……ソカー サビシ ナイ?

ん、今は無いよ。

ノック サビシ ナ コドモ イナカ ナー

なんとなくそういう(どういう?)雰囲気は飛んでしまいました。正直、ボクは時間も随分経っていたので、子供に対しての寂しさ的なものは、当時はすでに乗り越えつつあったのです。しかし、ノックはそうでは無かったようで、酔っていたこともあり、一度子供のことを思い出すと、そのまま涙ぐみ始めてしまいました。何を言っても白々しくなりそうだったので、ひとまずシャワーを浴びに行きます。ボクはもう3時間もすれば出勤。ウッカリ寝てしまうわけにも行かないので、当時好きだった競馬中継の録画を見始めました。ノックもシャワーを使い、出てきて隣でそれを見ています。着ているのはボクの着古したグレーのスウェット上下でした。それを着たノックがなんだかえらく野暮ったく見えて、思わず笑ってしまいます。つられてノックも笑います。

ガォ ラック ナー

ビデオの競馬中継を見ながら、ノックが言いました。ラックナー รักนะ 、の意味は調べてみてくださいwこの日から程なくして、彼女はボクの部屋に住み始めました。猥雑な街の片隅の小さな部屋で、ボクと彼女の暮らしが始まったのです。

と、そこから3ヶ月程。二人の生活は特に大きな波乱もなく、ある意味淡々と過ぎていきました。気の強い子だったので、ケンカをすることも多かったのです(そして滅多なことでは謝りません)が、タイ人独特のあっけらかんとした部分で次の日には元通りです。そして、外で飲むことが多かった二人ですが、一緒に住むようになってからは、自宅で飲むことが増えました。ただ、週末になるとノックの店は忙しく、帰宅も遅かったのでボクは一人で部屋に居たり、濱岡さんと飲むことがとても増えました。濱岡さんには、本当にお世話になったなぁ…。ボクもノックも、お互いに仕事は普通に続けていました。が、ノックのビザの期限が迫っていたのです。そもそも彼女のビザは正規のビザだったかどうかも…。

ガォ イナカ イッショ イク カー?

田舎?ノックの?

ソウ ノック イナカ ナー

実は、この時点での会話は半分以上はタイ語になっていました。日本語とタイ語のちゃんぽんです。店のコック、ピープイに言われた『タイ人の彼女作れば、タイ語なんてあっという間に覚えるよ』を、正に地で行っていたわけです。この一緒に住んだ三ヶ月、ノックにも極力タイ語を話してもらうようにすることで、ボクのタイ語能力は、それまでと比べると飛躍的に伸びました。ただ、後から考えるとここで彼女と話して覚えたタイ語は、正直汚い言葉が多かったり、女性っぽい言い回しだったりと、色々と問題もあったんです。それこそタニヤ大学的な。でも、店で働き始めた当初から比べたら、リスニング能力は相当に鍛えられましたし、タイ語の雰囲気や言い回しは随分とマスターできたのは確かです。また、様々なタイの家庭料理を覚えたのもこの頃。ノックは相当に料理上手でした。

彼女は一度タイに帰って、しばらくは子どもと暮らそうと思っていると言いました。恐らく、日本で働くことで、送金もできたし、ある程度の蓄えが出来たのだと思います。ボクに一緒に帰ろうと誘った意図は、その時点では分かりませんでした。しかし、この頃すでにボクは彼女をちゃんと好きになっていましたし、彼女がそういう店で働くことを必ずしも喜んではいなかったので(まぁお客さんなどへの嫉妬ですね)、一度田舎に帰るのは、むしろ賛成でもありました。ただ、例のろくでなしのダンナも田舎にはいるわけです。そんなのに関わってもロクな事にはなりません。ノックに真意を問いただしますが、特に理由はない、彼氏だから一緒に帰りたいだけ、と言うばかりです。

彼女の田舎は、チェンライの空港から車で2時間弱ぐらいのパヤオというところで、当時、タイの中でも最貧県と言われていた場所です。しかし、このパヤオは美人の産地とも言われていて、ここ出身(というか北出身は今でもそう言われますが)の女性は昔から美人が多く、水商売や風俗を生業とする女性もとても多かったのです。最近も恐らく、多いんじゃないでしょうか。今でもタイのその手の店で日本人に人気なのは、北の県出身の女性が多いと聞きます(欧米人は東北地方の女性を好むことが多いみたい)。北だけではなく、更に北のミャンマー国境のタイヤイの女性もとても綺麗ですが、その辺の話はまた今度。ボクは当時、バンコクの経験はそこそこあって、チェンマイにも行ったことはあったけれど、それ以外の北の県には行ったことはありませんでした。

色々と考えはしましたが、とりあえずノックの誘いにしたがって、一緒に彼女の村に行ってみることにしたのです。

続きます。

http://bkk9.net/2016/05/27/thai-restaurant-story8/

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